プレイステーション4は本当に世に出るのか?ゲーム機戦争の戦場は今後スマートテレビへ移行
「テレビの進化が終わった」という誤り
先日ダイヤモンド・オンラインに一本の記事が掲載された。
視力、聴力、運動能力……製品を使う人間の身体能力の限界からくる「知覚限界」という壁
非常に雑に要約すれば「これ以上テレビの性能を上げても画質の向上が人間の知覚限界を超えているため、テレビでは低価格商品との差別化を出来ない」という論旨だ。
現状では一見この考え方は正しい。
高価な有機ELテレビはそれほど普及しないだろうという考え方だ。
しかし、同時に完全に間違っている。
テレビの性能向上は映像の高画質化のみへ向かっているわけではないからだ。
今後テレビの進化の向かう先は、高画質化ではなく明らかにスマーテレビだ。
スマートテレビとは誤解を恐れずにざっくり説明してしまうと巨大なスマートフォンであり、持ち運ばないタブレットPCだ。
最初にスマートテレビという言葉を用いたのはサムスンだと言われている。
(参照:スマートTVブーム? ネット時代の映像ディスプレイを考える クラウドのメディア化とスマートTV)
既にアップル、グーグル、ソニー、パナソニックといったおなじみのプレイヤー達は当然のようにこの分野に乗り出している。
(参照:
「ソニーインターネットテレビ」日本での発売は?グーグルテレビ「Sony Internet TV」で何が可能に?
新「Apple TV」(アップルテレビ)で何が可能に?使い方は?日本でのサービス開始!映画視聴方法と料金は?)
ゲームの分野ではEAのOriginがスマートテレビに参入している。
(参照:Origin coming to Mac, Android, Facebook, smart TVs)
更に付け加えると、スマートテレビの概念にもよるが、現在日本で流通しているほとんどのテレビは実は既にスマートテレビ化しているともいえる。
ほとんどのテレビではインターネットに接続する事でガジェット、アプリやクラウドサービスへアクセス可能だ。
パナソニックやソニーのテレビであれば、難なくHuluなどのビデオオンデマンドサービスを利用できる。
もしそういった機能のないテレビであっても、WiiやPS3、Xbox360といったゲーム機、レコーダー、専用セットトップボックスなどを接続することで、テレビを容易にスマートテレビ化する事が出来る。
テレビの進化は、映像の高画質化ではなく、今後は「地上波放送を見る」以外の付加サービスへと向かっている。(余談だが、そういう意味では地上波放送というコンテンツは既に陳腐化している。視聴率は今後下降の一途だろう。)
スマートテレビはスマートフォン以上に家庭用ゲーム機と競合する
家庭用のテレビをわざわざインターネットに接続する人は少ない。そんなものは流行することはない。
そう考える人はいるだろう。
かつて、「難解なPCが一般人に流行する事はない」「高額な接続料を払ってまでインターネットを利用するのは少数派」「画質に劣るデジカメは流行らない」「MP3で音楽を聴くなんて正気じゃない。MDとCDで十分」「テレビはブラウン管でいい」「ネットに高額な金がかかるスマートフォンは流行らない」等々、さんざん言われてきたことと同じだ。
企業が一斉にスマートテレビへ向かう以上、スマートテレビは普及する。
なぜなら性能とサービスの圧倒的な向上や低価格化が進めば、誰だってメリットの大きい方を選ぶからだ。
現実にいまでも「インターネット契約と一緒に購入すればテレビが○万円引き」と言われてフレッツ光契約と一緒にテレビを購入する人は多いだろう。
今後はフレッツ光ではなく、LTEやWiMAXといった高速無線通信とセットにしてスマートテレビは販売促進されていく。
CATVのセットトップボックスがいずれすべてスマートテレビ用セットトップボックスに置き換わるのだから、いやでも普及していくだろう。
(参照:これはすごい KDDI(au)のスマートテレビ詳細明らかに)
テレビの買い換えサイクルにあわせて、日本のテレビはすべてスマートテレビに置き換わる。
しかも置き換わるのはテレビだけではない。
家庭のPCがすべてスマートテレビやタブレット、スマートフォンに取って代わられるだろう。
理由はいくつかある。
1,今後インターネット接続は光からLTEやWiMAXへ順次移行する。
(参照:ソフトバンク戦略転換の節目か LTE「月額5985円」宣言)
なぜ移行するのかといえば、これは単純に光通信設備をNTTが独占しているからだ。現在Yahoo!BBで大きなシェアをもっていたソフトバンクBBはフレッツ光のプロバイダの一つに過ぎない。
ほとんどの利益をNTTに吸い上げられている状態だ。
一刻も早くユーザーをLTEサービスへ移行させたいのが本音だろう。
今後、LTEやWiMAXのシェア争いは携帯電話の獲得競争と同じく激化するだろう。
2,スマートテレビやスマートフォンのPC化
かつて、テレビを観ることが出来るPC「テレビパソコン」というのが流行したことがある。まだアナログ放送時代のことだ。
現在、この潮流は逆流しており、テレビがPC化する時代にさしかかっている。
もちろん現在でもPCをテレビに接続するのは非常に簡単なことだ。だが、それをやる人は少ない。使いにくいからだ。
かつてスマートフォンもあまり流行しなかった。VisorPhoneやWindows Mobileの携帯電話は使い勝手が余りよかったとはいえないからだ。
スマートテレビでも、今後より利用しやすいOSが開発されることが望まれるが、当面の間利用されそうなのはAndroidやWindows、iOSだろう。
注目すべきはPCやMacのOSであったWindowsとMac OSで、モバイル用のWindows Phone 7やiOSとのOSの統合がすでにはじまっていることだ。
(参照:
タブレットや低価格PCを狙う ARM版Windows 8とは何か?
最終回:統合進むiOSとOS Xの未来像)
Windows 8はよりモバイル用へ、iOSはよりMac OSへ近づいている。
いずれはこの中から、テレビ画面でも操作しやすいOSが誕生するだろう。
その時、スマートテレビはiPodやiPhoneのように一気に普及する可能性がある。
この流れから読みとれることは、近い将来テレビとPCは同じ機械になるということだ。
つまり、PCでプレイ可能なゲームはテレビでもプレイ可能になってしまう。
高性能なPCが必要なPCゲームがテレビでプレイ可能になるはずがないと考えるならば、それは大きな間違いだ。
技術は需要によって進歩し、価格はシェア拡大によって大幅に下がる。
現在でもPS3クラスのゲームであれば、6万円弱のPCでプレイ可能だ。テレビの価格に上乗せされたとしても10万円以下で購入可能な金額だ。
価格は更に下降するし、高速モバイル通信網のシェア拡大を狙うドコモ、au、ソフトバンクといったプレイヤー達がスマートテレビの普及に参戦すれば、タブレットPCよりちょっと高いぐらいの価格まで価格が低下するのは容易に想像できる。
それに、現実にいまiPadではUnreal Engine 3のゲームが動作している。
テレビでハイクオリティなゲームがプレイ出来ない理由はない。
テレビは近い将来、必ず家庭用ゲーム機と競合する存在になる。
次世代ゲーム機はサービスへ移行する
私は以前から次世代家庭用ゲーム機は発売されないのではないか、と考えてきた。
リードプラットフォームはスマートフォンへと移行し、家庭用ゲーム機はクラウド上のサービスへと移行、ソニーはブラビアでOnLive的なクラウドゲーミングを実装し差別化を図るのではないか、という予想だ。
(参照:
次世代Xboxの発売は近い!履歴書から情報漏洩。次世代プレイステーションはどうなる?
このままではWiiUも新型Xboxも発売前から周回遅れ?スマートフォン+OnLiveが描き出す家庭用ゲーム機の終焉
OnLiveでDear EstherなどIGF SHOWCASEが30分フリートライアル中。ついでにOnLiveを試してみるチャンス。)
実際にソニーはその後、GaikaiやEMIの音楽出版部門を買収し、Music Unlimitedをロンチ、So-netを完全子会社化している。
(参照:
ソニー、クラウドゲーミングのGaikaiを約300億円で買収
ソニーがEMI買収完了 世界最大200万件超の音楽版権
ソニー、「So-net」のソネットエンタテインメントを完全子会社化
「Music Unlimitedは“One Sony”の象徴」 ー ソニー・平井社長がローンチ記念イベントに出席)
これらの出来事は、ソニーがもはやものづくりの企業ではなく、One Sonyの大号令の元でいかなるデバイスからでも同じサービスを世界中に提供するサービス企業へ変貌しつつあるということを示している。
スマートテレビやスマートフォン上でプレイ可能なゲームは、もちろんGaikaiでのクラウドゲーミングのみに止まらない。
PlayStation Mobileがついに本格展開を迎え、対応機器もHTCやASUSTeK Computerからもリリースされることになっている。
いうまでもなくHTCやASUSTeKはスマートフォン、スマートテレビ市場では強力なプレイヤーだ。
ソニーは古くから相思相愛のグーグル、HTCやASUSTeKといった強力なプレヤー達とともに、着々とモバイル分野の最強チームをつくりつつある。
(参照:PlayStation Mobileが本格展開、今秋よりPlayStation Storeでコンテンツ配信)
PS SuiteがPlayStation Mobileへ名称を変更されたことは、一つの象徴的な出来事だといえる。
PlayStation MobileというのはPS Suiteというプラットフォームの名称ではなく、あきらかにサービスの名称だ。
PlayStationがゲーム機というハードウェアの名称から、ハードを問わないサービスの名称へ変わった瞬間といってもいい。
ソニーは、既にPlayStationをゲーム機の名前だとは考えていない。
ゲームを巡る環境は、すでにサービスへと移行しつつある。
PC並の性能へ向上する可能性の高いスマートテレビ、そこで動作するPlayStation Mobileでリリースされるゲームが古いプレイステーション用ゲームやカジュアルゲームだけと考えるのは、いささか単純すぎる。
プレイステーション4は実在するのか
プレイステーション4というハードが存在するのかどうかは、非常に悩ましい問題だ。
個人的にはおそらくプレイステーション4という概念は存在するだろうが、世に出るかどうかは6:4ぐらいで出ないと考えている。
理由の一つは、リリースしてもサードパーティーがゲームをリリースしないだろうということだ。
プレイステーションのユーザー層の多くは国内と欧州に依存している。
国内は周知の通りガラパゴス市場であり、概ね日本でしか売れない国内メーカーのゲームによって市場が形成されている。
そしてほとんどすべての国内メーカーのゲームがプレイステーション3のスペックを使い切っているとはいえず、かつプレイヤーも高性能を求めていない。
国内のゲーマーの多くは萌えキャラの顔に刻まれたリアルな皺などみたくないだろうし、高速演算が必要なAIの挙動や、建造物の破壊といった要素のあるゲームをプレイしていないのは明らかだ。
パンツのテクスチャが高精細である必要はないし、おっぱいの揺れさえリアルに計算できればいいのだから、Unreal Engine 3やUnityが動作すれば十分ともいえる。
しかも国内メーカー製のゲームは概してカジュアルであり、プレイヤーもゲームのために高額なゲーム専用機を購入するようなユーザー層ではない。(3DSやPS Vitaでさえ、高額で売れないのだ。)
必然的に、プレイヤーもデベロッパーやパブリッシャーもゲームはスマートフォンへと流れていくだろう。(現実にいまそうなっている。)
PS Vitaにすら国内サードのゲームを集められないいま、プレイステーション4にゲームを提供する国内サードは、おそらくない。
国内サードのゲームがなければ、プレイステーション4が国内で売れることはないだろう。
つまり、プレイステーション4が大きな市場を築くのは難しいと予想できる。
PS Vitaの不振は、おそらくプレイステーション4の開発に大きなブレーキをかけたことだろう。
当然のように来年には登場すると思われているプレイステーション4だが、やはり私は世に出る可能性は少ない気がする。
それにいまのソニーの流れをみると、プレイステーション4というゲームに特化したハードは、平井氏の唱える「One Sony」という概念に著しくそぐわない。
やはりプレイステーションは今後、テレビやPC、スマートフォンといったあらゆるハードで動作するサービスへと変貌していくと考えるのが妥当と思える。(技術的に可能かどうかなどは、ソニーという企業は伝統的に考慮しないだろう。)
家でも外出先でも、同じゲームがプレイ出来て、映画が観られ、音楽が聴ける。
ソニーのライバルは既にマイクロソフトや任天堂ではなく、アップルなのだ。
どちらの市場がより大きいかなど、考えるまでもない。
SCEのファーストパーティーであるNaughty Dogがプレイステーション3向けに開発しているゲームの名称が「The Last of Us」だというのは実に示唆に富んでいる。
プレイステーション3でやり残した仕事を終えた後、Naughty Dogはどんなプラットフォームへ向けたゲームをつくるのだろうか。
画像参照:RUMOR | New PS3 Exclusive The Last Of Us Might Feature PlayStation Move Support